隔たりの向こう側へ足をのばして―ka(2022)「君(たち)になる」のともした希望―

冒頭の、ゲーテ『ファウスト』の一説ののち、クピドが、同じような格好をした友達と踊っている様子が描かれる。彼らは輪になっていて手を重ねている。ここから、振付が決まっており、息を合わせて踊る必要があるとわかる。
クピドは踊りの途中で転んでしまう。友達は心配してクピドに声をかける。声をかけられたクピドは、すぐに返事をせず、あっけにとられている様子だ。

ごめん!うっかりしてたみたい…

クピドが返事をする。彼らにとって、慣れ親しんだ踊りなのか、間違うはずのない踊りだったようだ。「うっかり」していなければこんなことは起きないはず、らしい。

次のシーンでは、クピドはダモンの生活エリアである地獄に遊びに来ている。先ほどの踊りのシーンとは違い、クピドは厚着だ。どうやら地獄は寒いらしい。地獄で暮らしている者たちは様々な格好をしているため、真っ白なクピドが来ても気にする者はいない。ダンスホールではみな振付のない踊りを踊っているから、クピドはダモンとともに乗り込むことができる。

なんだか違う生き物になれたみたいだ

非日常に興奮したモノローグとも唱えられるが、はたしてそうだろうか。シーンはまた、クピドの世界へ移る。クピドの世界の、クピドと、その友達との会話だ。かれらは、思考が共有されているらしい。ひとりが思ったことは他者に伝達され、すべてが自明のようなコミュニケーションをとる。クピドの友達は、答えが存在するものについて語る。

どうしてちがうんだろう?

クピドが、友達が発見した生物の様子を見て、尾ひれの違いを発見し、それに「なぜ」を唱える。すると、友達の表情は、小さな生物にほころばせていた顔をやや、整わせる。微笑みを浮かべる者もいる。しかし、クピドの発言に、すこし、違和感を覚えているらしい。

クピドもそんな友達を見て、整った笑みを浮かべる。ここが、地獄とは違う場所である、ということを、思い出したのかもしれない。

次のシーンでは、ダモンがクピドの世界に来ている。クピドの世界はダモンには暑いらしい。汗をかいている。

……似たような姿かたちをしていただろう

真っ白な生き物しかいない世界では、ダモンは「違うもの」としてとらえられる。違うものが気になる天使たちがダモンをかまうので、彼らは広い広い草原に足をのばした。

やっぱり クピドさんは不思議なひとだね

ダモンの言葉に、クピドは美しい表情でこたえる。

ダモン君
オレと同じ踊りをしてみて
オレと同じステップを踏んで
オレと同じ速度になって
そうしたらオレが考えていること、わかるかも……

その美しい表情を、ダモンが崩す。

貴方がいつもしてくることの真似
さすがに貴方の思考は読めなかったけど
驚く顔が見れて良かった、とは思った。

ダモンと過ごしたのち、クピドは自分の居場所へ戻る。そこで目にしたのは、友人たちがかわいがっていた生物を解剖している様子であった。それを目にしたクピドは、本編で一番美しい表情をする。

クピドの言うとおり、彼らの秘密を知るのも楽しいんじゃないかしらって
なにより、あなたのことがわかりたくて……
一緒に手伝ってくれる?

クピドは顔をほころばせ、答える。

もちろん!

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