物事を言語化すること

以前お題箱で、物事を言語化することについて、気を付けていることやコツなどがあるか、という質問をいただいた。 ツイートや日記を読んでいただいたうえで、なにか気にしてもらっていたらしい。ありがたい。

ツイートのリプツリーで当時返信をしたのだが、そのあと割とすぐにツイートを全削除してしまったので、つらつらとここに書いていこうと思う。

 

  物事を言語化することがうまい、と言われることはたまにある。「よくそんなに言葉が出てくるね」とか、「たとえが的確」だとか言葉をいただくことがある。 だが、これはなんというか、とにかくおしゃべりであるということが原因の中心にあるような気がする。打つ球が非常に多くて、あまりに些末なものが多いのであるが、そのうちヒットしたものだけ相手が憶えている、という感覚があり、それは実態に近いのではないかと思う。一球入魂タイプでないことは確かだ。バズったことは一度もないが、バズったツイートがその人の代表作・性格を表すツイートになる、というような…。

また、私は10年以上SNSをやっている。文字で打ったことだけがその人の持っている思想だと受け取られる世界に、ROM専期間を持たずに10年以上いたのだ。SNSではほとんど「言語化」を伴った営みでしか相手とコミュニケーションをとることができない。そこには会釈や目が合った時の笑顔は存在しない。最近は「いいね」が慕わしさを示すニュアンスを持ちつつあるが、実際に話した時に相手が返答はせずともうなずいてくれるという現象と等価であるとは言えない。SNS上でコミュニケーションするということを少なからず目的にしていれば、言語化という営みをせざるを得ない。そこに10年以上もいれば、試行回数の多さは言わずもがな、ということになる。

かといって、答えが「半年ROMれ」ならぬ「10年SNSやれ」ではあまりにそっけないので、言語化に関する自分語りを中心としながら気を付けていることを話すことにする。  

 

初めて「思ってることが伝わらない」と感じたのは、保育所にいたころだったと思う。いまだに適切な言葉が見つからないのだが、当時、明確な対象がないにもかかわらず恐怖を感じるときがあった。より一般的な言葉でいうなら、「胸騒ぎ」的なものなのだと思う。「漠然とした不安」というものでもよいかもしれない。しかし、当時の私にとって恐怖や不安はなにか対象があって起こるもので、ただただすわりが悪い感情になっていた。熱があるわけでも体の調子が悪いわけでもなく、泣くほどでもない。これをどのように周りに伝えたらいいのかわからなかった。

当時の私はひたすらに「気持ちが怖い」という言葉を使っていた。周りの大人たちは「何かが怖いの?」「不安ってこと?」「悲しいの?」と聞いてくれたが、そのどれも当てはまらず、両者ともに困惑する時間が流れていた。

ここで私が強く感じたのは、「不便」ということだ。意思疎通ができなければ自分の不調を相手に知らせることも難しい。そうすると、悲しいのか不安なのかわからないじりじりとした感情のまま、自分が喜ぶことを想定されて出された話題にこたえなければならなかったりする。自分の今のかたちを相手に伝えておかないと、相手の思うかたちに自分が合わせなくてはならなくなる。それはすごくエネルギーを使う。思っていることが伝わらないのは、すごく不便だ。

ここの肝は、伝えさえすればどうにかなる、と思っているところにある。周りの大人たちが自分の状態に合う言葉を探そうとしてくれたのも影響しているかもしれない。当時はしっくりいく言葉が見つからず、結果として「そんなこと言われてもわかんないよ」といわれてしまったが、他の点、例えばシンプルな体調不良を伝える場面などでは、大人は問題なく対応してくれた。だから、問題は伝えられなかったことで、伝わる形で出しさえすればよい方向へ向かうだろう、と今でも思っている節がある。

 

そこからかなり飛んでインターネット世界の話になる。使い始めはちょいちょい言い方について指摘をいただいたことがある。例えば、長時間かけて絵を完成させた人の「完成させました!!!やった~!」という投稿に対して、「お疲れ様です!」と返信したところ、今で言う空中リプライで「仕事じゃないから、お疲れ様です、よりはやりましたね~とかすごい!とかのほうがいいな」みたいな指摘をもらった。

当時の私は「お疲れ様です」が万能の言葉だと思っていて、とにかく何かをやり遂げた人にはそれを使っていた。要はあまり意味をよく考えて使っていなかったのである。その返信も条件反射的に打ったものだった。

不思議なもので、そういうずれはきちんと察知されるのだ、と思う。そのずれを察知しながらも、悪意はないということを知っていてくれたからこそ、そのような指摘を優しめに頂けたのだ。今となってはどこで何をしているかわからないamebaのフォロワーさん、本当にありがとう。

この辺から、返信はただもらってもうれしいものではなくて、内容に即したものである必要があると理解し始めた。「とりあえず」送っているものは「とりあえず」だと察知される。自分が相手の投稿をどんな風に読み取り、何を思って、何を伝えたくて返信をするのか、ということをきちんと考えたほうがいいのだろう、だってこれはコミュニケーションなんだから、と考えるようになった。

 

  類例としてTwitterに移ったのち、本の感想を「小説がうまい…」と表現し、その後「小説がうまくなるプロセスが具体的に想像できない、小説がうまいってすごい」みたいな感想をつぶやいたところ、RTされて「そうだろうか?」みたいな空中リプライをもらったり、「うまいかどうかより好きかどうかが問題では」という空中リプライをもらったことがあった。

「そんな話はしておらず、ただ文章の巧みさに感動し、おもしろかったし好きだ」という話なのだが、これは完全に私の言葉足らずで起こっている現象である。感想自体が問題なのではなく、なぜそう思ったのか、その後ろにどういう背景があるのか、ということを一切述べずにツイートしてしまっているため、「主語がでかい」という現象が起こってしまっている。完全に私一人の感想なのであるが、主語がでかいために周りの人間も自分が適用されている話だと思ってしまう。なるべく背景を述べ、主語を自分にして、小さい個人の話にすることが大切だということもだんだんわかってきた。

重要なのは、感情に正当性はない、ということである。そして、その感情に対して、他者が何か言う権利はもともとない。当時の私は「小説のことをうまいって言っちゃいけないんだ」と一度思いかけたが、それは問題の根源ではない。主語を大きくして他者にも適用される考えのように述べてしまったことが問題であり、小さい個人を主語にして個人の鑑賞体験の記述にすれば、周りも他者のものだとして受け取れるのである。  

 

こんなような経験から、しいて言うなら以下のことに気を付けている。

  • 根拠をとにかく述べる
  • 冗長になることを恐れない
  • 修正をいとわない

なぜそう感じたのか、なぜその言葉を選んだのか、根拠を明示することは重要だ。言葉の意味は明確に決定されていない。人によってニュアンスが異なる。では、誤解を生むことが多い言葉を避けていく、とすれば、使える言葉が限られてしまう。重要なのは、「自分はこういう意味で、こういうつもりでこの言葉を使っています」と相手に示すことである。絵を描き上げた人に「お疲れ様です」ということ自体は問題ではないのだ。問題なのは、私が、描き上げるまでのエネルギー消費に敬意を表したいのか、出来上がったことのうれしさに同調したいのか、ということである。ここで、自分の伝えたい感情と、使用する言葉に向き合うことになる。「何を伝えたくて」「どのような意味で」「どの言葉を使うのか」、この道筋ができていれば、誤解を生む幅が狭くなり、「物事の言語化」の達成に近くなるのではないかと思う。

そのようにすると、どうしても冗長になる。140字ぎりぎりか、少しはみ出してしまうかもしれない。しかし、Twitterには以前はなかったリプツリーというシステムがある。つなげれば長い話もできる。どんどんつなげていこう。短く収めた結果誤解を生んで言語化が怖くなるよりも、そっちのほうが全然いいと思うのだ。

そして、どんどん修正してしまおう。ツイートは削除できる。とりあえず長くつらつらつぶやいた後に、無駄をそぎをとしてツイートしなおすのもありだ。シンプルな一球入魂にはあこがれるが、私はとてもそれができたためしがない。

  とにかく言語化には考慮事項が多くエネルギーがいるかもしれない。私は「周りに発散したい」「相手に伝えたい」というおおよそ自分本位な感情がそれらのエネルギーを厭う感情よりも大きいのでこれを繰り返しているが、「そこまでして伝えたいことはない」という場合は、特にやる必要はないのだと思う。私はこれらの考慮事項その他をスキップして言語化ができているわけではなく、ただ、「相手に感情を伝えたい」という自分本位な思いがそれらよりもすごく大きいだけなのである。

ことばに関する指摘はへこむことも多いが、適切ではなかったのは使い方であって、言葉それ自体や感情ではない、と思うようにしている。使い方を間違った自分を責めることも、あまりしたくない。コミュニケーション不全は修正によって改善できる、と、私はどこかで信じている。

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